新潟大学附属新潟小学校研究機関誌「授業の研究(F・NET)第148号」原稿
学びのIn・About・For
上越教育大学助教授 木 村 吉 彦
私は、幼児教育学の視点から生活科についてこだわり続けている。幼児教育学の視点とは、具体的な活動や体験を通して子どもは何を学んでいるのか、という「子どもの学び」あるいは「育ち」にこだわる視点である。
「子どもの学び」を知るには、子どもの姿を知らなければならない。「はじめに子ども理解あり」も幼児教育学の視点である。実際の教室に足を運び、子どもをよく観て理解するところから「教育学」が始まると考えている。昨年度、附属新潟小学校に足繁く通ったのもこの発想の具現化のつもりである。
学校現場へお邪魔すると、生活科のみならず総合的な学習についても見てほしいと依頼される。幼児期から児童期を見通した学びにこだわる私としては断る理由はない。
11月末に山形県のとある小学校の校内研修にお邪魔した。その時いただいた考えるヒントが「In・About・For」である。もともと、「環境教育の3要素」として用いられている語だそうである。その学校の先生方は、これらを学習過程分析の視点にしようと苦慮しておられたが、私は大変優れた着眼であると思った。すなわち、低学年・中学年・高学年「それぞれの時期において相対的に最も大切にしなければならない課題」を言い当てている、と思ったのである。生活科と総合的な学習における「単元構成の視点」という観点から私なりにその意味するところを考えてみる。
1.In:もともとの意味は「〜の中へ、〜の中に(で)」を表す英語である。これは、活動の中へ「没頭」す ることの大切さを象徴している。低学年児童は対象に関わり、浸ることによって「生きている充実感」をもつことが最も大事である。それが彼らの「生きる自信」となり「自立への基礎」へとつながる。
2.About:意味は「〜に関して、〜について」である。ある課題についてこだわる、知る、調べることの大切さを象徴していると思う。中学年児童にとっては、課題について知的好奇心をもち、かつ課題へのアプローチのし方(つまりは「学び方」)を身に付けることが最も大事である。「追究」の第一段階と言えるであろう。
3.For:意味は「〜のために」である。その意味は二つあり、@(人[誰])のために、とA(何)のために、である。高学年児童にとっては、自分の追究している課題が、誰のために役立つのか、また自分にとってどういう意味があるのか(何のために追究しているのか)を考えること、つまり自分自身の「生き方」について考えることにつながる学びが最も大事である。単に「知りたいから知る」を越えた「追究」の第二段階である。
このように、「In・About・For」は、生活科から総合への学びの重点目標を示す「合言葉」として使えるように思う。
ちなみに、私がもつ教員免許は中・高の英語である。教育実習の折りに「英語が訛っている」との指摘を受け、公立学校の教壇に立つことを断念した苦い思い出がある。