『地域の特色を生かした生活科の授業』(学校図書 2001.3.)

巻頭言

課題は地域のうちにあり

上越教育大学助教授 木 村 吉 彦


 私がこれまで見せていただいた「総合的な学習」には、大雑把に言って次の3つのタイプがある。
@生活科の発展としての総合
 子どもの発達(とりわけ主体性の発達)の連続性を強く意識するタイプ。子ども一人一人の課題発見や課題解決を大切にする。現実には、生活科の「地域探検」の中で子どもが見つけた課題を発展させたものが多い。それは、課題を子どもの内面に食い込ませるために最も自然な在り方だからである。
A教科の発展としての総合
 学習課題(教師の学ばせたい課題)の連続性を強く意識するタイプ。社会科や理科との関連などが好例である。地域の産業や環境等を課題とし、調べ学習で学び方を学ぶ。クラス全体の課題から子ども一人一人の課題へと降りていくケースが多い。
B学校行事の発展としての総合 
 地域ぐるみの活動として地域を巻き込んで展開されるタイプ。地域の方を招いた発表会のような形になる場合が多い。これまで行われていた学校行事の内容を「総合的な学習」にリメイクしたものと言える。どうしてもイベント性が強くなる。従って、「発表」に向けて学習を進めるのではなく、日頃の活動や学習の成果を地域の人に「公開」するという発想でやらないと、「生き方について考える」学習にならないおそれがある。
 このように考えると、生活科や総合的な学習は、子ども(主体性)・学習課題(課題性)・地域 という3要素のどれに力点がかかるかによってその内容が決まると言える。さらに注目して欲しいのは、上の3つのタイプのいずれにも共通するものが「地域」の中で見いだされた課題である。
 一方、生活科・総合的な学習は、「知の総合化」の場としての役割を持っている。「知の総合化」の対極にあるものは「知の空洞化」である。つまり、「総合化された知」とは、単に各教科で取り扱えない「知識」ということではなく、「体験に基づく実感を伴った知(知識や知恵)」のことである。実体験に乏しく、人と関わる経験がきわめて希薄な今の子ども達にとって必要不可欠なものが「総合化された知」なのである。その「知」は、また子どもの実生活に帰っていき、子ども達の問題解決に直接貢献するものでなければならない。
 子ども達の実生活とは何か、それは、「地域における生活」である。地域を歩くことによってそれぞれの子どもに課題が見えてくる。その課題に取り組み、解決する。そのプロセスの中で「自ら課題を見つけ、自ら考える力」が育まれていく。
 いたずらに「諸課題」の例や「先進校」の事例に惑わされることなく、子どもと一緒に地域を歩くことからはじめよう。そこには必ず「課題」が待ってくれている。




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